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卒乳(断乳)の時期について徹底解説!



ご出産後、母乳育児の始まりは、産院の助産師さんや地域の保健師さんなどから、授乳をする際の赤ちゃんの抱き方・乳首の咥え方・授乳のリズム・ミルクの足し方など、細かいアドバイスを受けることは多いでしょう。

しかし、その母乳育児を、いつ、どのように終わりにしたら良いのかいうことについては、詳しいことを知らない方が多いのではないかと思います。

卒乳・断乳相談は、乳腺炎や母乳不足感に並んで、常に、母乳相談の上位にくる相談事です。そこで今回は、数回にわたって「卒乳・断乳」についてお話をしていきましょう。

目次

「卒乳」「断乳」という言葉の意味について

よく「卒乳」はこどもがおっぱいを欲しがらなくなったこと。「断乳」は、こどもが欲しがっているのに、授乳を辞めてしまうこと。と説明されていることがありますが、その言葉の違いに大きな意味はありません。どんな形であれ、母親が授乳を終えることについて、労いと敬意を込めて、私は全て「卒乳」と表現しています。そのため、このブログの中でも、「卒乳」という言葉を使います。

卒乳する理由について

卒乳をする理由は、様々です。

こどもが1歳になり、そろそろやめたほうが良いのかなと思った。
職場復帰するために保育園入園を予定している。
母乳ばかりを欲しがり、離乳食をほとんど食べない。
おっぱいへの執着が強く、他の人に預けられなくて困る。
こどもがおっぱいをあまり欲しがらない。
次のこどもの妊活(不妊治療)を始めたい。
赤ちゃんがおっぱいに吸い付くことが難しく、授乳が辛い。
授乳が頻回で、心身の疲労が強い。
何度も乳腺炎を繰り返すことが怖い。
授乳をしていると気分が悪くなる。
上の子に手がかかり、下の子に授乳をする余裕がない。
妊娠した。
夫の浮気が心配。
ママの突発的な病気の治療のため、医師から授乳を止められた。
赤ちゃんの病気の治療のため、授乳が出来なくなった。
こどもの虫歯が心配。


卒乳をする理由に可も不可もありません。
卒乳する理由は、それぞれの事情で良いのです。
ただし、その際に、正しい知識を持った人から適切な情報を得ることはとても大切です。
上記にあげた卒乳の理由の中にも、誤解されているものも含まれていますが、そのことについても、この後のブログの中で触れていきたいと思います。

卒乳の時期について

WHOが推奨している時期とは

WHO(世界保健機構)は、様々な科学的根拠に基づく母乳育児のメリットの観点から、2歳かそれ以上の授乳を勧めています。

母乳は、赤ちゃんの免疫機能や感染防御機能を高め、
様々な疾患(アレルギー疾患・中耳炎・肺炎・気管支炎・髄膜炎・胃腸炎・尿路感染症・1型糖尿病・乳幼児突然死症候群など)から赤ちゃんを守ろうとします。

母乳は、脳の成長に最適な栄養であり、将来、肥満になるリスクを減らすと言われています。
コロナ禍では、母親がコロナワクチンを接種した場合、母親の体内で作れたコロナ感染を予防する抗体は、母乳を介して赤ちゃんに届けられることが広く知られました。
それは、コロナに限らず、例えば、母親が風邪をひいた時、授乳時の接触や飛沫感染には十分配慮する必要がありますが、風邪の抗体は、母乳をからこどもに届けられるので、母乳を飲んでいた方が母親の風邪から守られるというメカニズムがあるのです。このような機能は、母乳を飲んでいる限り続きます。

保育園に入園したとき、こども達はたくさんの感染症に出会います。
授乳を続けることはそのような感染からこどもを守る一助となるのです。
また、最近では、授乳期間が長い方の方が閉経後の乳がんの発症が少ないという報告もされています。
現在、日本人女性の9人に1人が乳がんの経験があります。
乳がんは身近な病気です。長期授乳が乳がんを確実に予防するものではありませんが、母乳育児というものが、母親の健康にも寄与している事が示されるようになってきました。

『授乳・離乳の支援ガイド』で記載されている内容とは

(4)離乳への移行

離乳を開始した後も、母乳又は育児用ミルクは授乳のリズムに沿って子どもが欲するまま、又は子どもの離乳の進行及び完了の状況に応じて与えるが、子どもの成長や発達、離乳の進行の程度や家庭環境によって子どもが乳汁を必要としなくなる時期は個人差が出てくる。そのため乳汁を終了する時期を決めることは難しく、いつまで乳 汁を継続することが適切かに関しては,母親等の考えを尊重して支援を進める。母親等が子どもの状態や自らの状態から、授乳を継続するのか、終了するのかを判断できるように情報提供を心がける。        (厚生労働省2019改訂版.p19)

2002年以前の母子手帳には「1歳断乳」という記述が見られましたが、2001年の母子手帳改定において「母子のスキンシップなどの観点から、1歳以降も無理に母乳をやめさせる必要はないとする考え方が主流」という理由によりその記述は消えました。

よって、現在においては、「〇〇までに卒乳をしましょう」というものはなく、「こどもの成長や生活環境等を考慮し、母親の考えを尊重しましょう」というのが基本的な方針となっています。

実際の母乳相談の卒乳の実態

実際に、いつ頃に卒乳している場合が多いのでしょう。
それはやはり、1歳前後に卒乳される場合が多いです。

その最も多い理由は、職場復帰と保育園入園です。
長時間労働や遠方への出勤。
夜勤があったり、不定期な勤務携帯。
家庭に、子育てをサポートしてくれる人がいない中での授乳継続は、時間的にも体力的にもメンタル的にも厳しいと不安に思っている方は多いです。
中には、母乳を欲しがって泣くからと、保育士さんが卒乳を勧めるケースもあります。

逆に、労働形態が自由な職業やテレワークなどの場合や、母乳育児を応援して下さる家族がいる場合には、復職後も長く授乳を続けているかたも少なくありません。
ただ、職場復帰を機に卒乳を考えている方の中には、あまり情報を持たず、保育園入園と同時に卒乳しなければならないと思っていた、という方が多い印象です。

また、最近では、次のこどもの妊活のために卒乳を希望される方が増えてきました。
現在は、不妊治療でご懐妊された方や受精卵を凍結保存されている方も珍しくありません。
一般的に、本格的な不妊治療は、卒乳後に月経が再開してから始めますので、ご自身が妊娠できるうちにと、ある程度育児が落ち着いてきた、お子さんが大まか1歳前後をイメージされている方が多い様に思います。

2歳以上のこどもの卒乳について

「こどもが大きくなって物心がつくと、おっぱいに執着して卒乳が難しくなるので、1歳までに卒乳した方が良い」というコメントを時々見かけますが、経験上、私はそれは少し違うなと思っています。

こども達が成長発達していく中で、1歳前後のこども達は大きな変化を見せます。
大人の言葉の意味を理解し始め、歩き始め、家族以外との交流も増え、こどもの世界は広がります。それは同時に、不安や痛みや心細さや、いろんな感情も生じます。

ママのおっぱいは、そんなこどもの心を一瞬で元気にしてくれます。
実は、この時期に授乳回数が増えることがよくあるのです。
それは、こどもの心の成長を阻むものではなく、むしろ授乳は安心感を与える事ができる最強アイテムです。
そんなタイミングでの卒乳は、こども達もかなり泣いて、母もかなり切ない思いをしますが、こどもはずっと泣き続けている訳ではないので、卒乳が出来ないということではありません。この点については、「卒乳の仕方」のところで詳しくお伝えします。

2歳台頃の卒乳は、実はとても面白くて楽しいです(と、私は感じています)
2歳になったこども達は、かなり良く理解し、片言の言葉が出始め、自分の喜怒哀楽の感情を体いっぱいで表現します。
「〇〇ちゃんのママのおっぱいが★になってお空にいくお話」などと、卒乳の準備としてオリジナルのお話を作ったり、家族みんなで卒乳のプロセスを楽しむこともできるのもこの年齢です。

3歳以上のこどもの卒乳は、率直に「真摯な姿勢での話合い」と「スキンシップ」です。
嘘やごまかしは通用しません。
たくさんスキンシップをしながら、卒乳することの合意と理解が必要なのです。そして、それが出来たときのこどもの成長ぶりに、親は驚きと感動を覚えます。

日頃、たくさんの卒乳していく母子を見ていますと、おっぱいの状況も踏まえ感じることは、「こどもの年齢が低いよりこどもの年齢が高い方が卒乳は楽」ということです。

因みに、世界の「ヒトの自然卒乳」は、今でも「4歳」と言われています。幼稚園に通う年齢のこども達が母乳を飲んでいる(おっぱいを吸っている)ことは、本当は自然なこどもの姿なのです。

産後6ヶ月未満の卒乳について

様々な事情の中で、産後間もない時期に卒乳をされる方もいらっしゃいます。
卒乳の理由は、このブログの冒頭に書きましたように、人それぞれです。
「どうしてこんな早い時期に母乳をやめるの?」とか、「もう少し頑張ればいいのに」など、周りの何気ない言葉に傷ついた方も少なくありません。
産後間もない時期に卒乳を決断された方の多くは、それまでの時間に、辛く苦しんだ経験があり、悩んで悩んで悩んで、その結果、やっと自分で出した答えが「卒乳」なのです。

赤ちゃんが上手くおっぱいに吸い付けなくて、激しく泣いて授乳を嫌がられた時、自分が未熟でダメな母親に思えて辛くなったりします。

長く続く乳頭痛や、乳腺炎の痛みと発熱を複数回経験すると、授乳を続けていくことに不安と恐怖を感じることもあります。

産後、一部のホルモンの反応により、母乳が分泌してくると心身に不調をきたす事があり、それにより、赤ちゃんが可愛く思えなかったりすることもあります。

まだ上の子にとても手がかかるとき、赤ちゃんの母乳育児に注ぐ時間もエネルギーも枯渇することがあります。

みなさん、それぞれの生活の中で辛さを感じながら、母乳育児に奮闘してきた方々です。
私は、そのような方が卒乳を希望される場合、ご本人のこれまでの経過とその時のお気持ちの確認と、もし必要な情報があればそれをお伝えした上で、赤ちゃんの月齢に関わらず、まずはその方の意思を尊重します。「本当に、よくここまで頑張りましたね。」という気持ちです。

私に「母乳」の尊さを教えてくれた人たち

私は、長年、総合病院の母乳外来に勤務していました。そこでは、妊娠中に乳がんが見つかった方々への授乳支援の経験があります。
その頃、妊娠中に乳がんと診断された場合、赤ちゃんを出産後、乳がんの治療を始めるために、早期の卒乳を余儀なくされていました。
しかしその中で、ご本人と、乳腺外科、産科、小児科間で話し合われ、せめて初乳だけでも赤ちゃんに飲ませてあげたいと、数日間だけの授乳が許可されました。

生まれたての我が子が、母親の柔らかく温かい乳房に触れ、その乳首を口に含む事ができるわずかな時間。
私には、生まれて来た命と母親の命が直接つながっている瞬間に思えました。どれだけ尊い時間だろうと思いました。

小さく産まれた赤ちゃんは、おっぱいに吸い付く事ができません。
初乳の分泌量はごくわずかです。
私は、乳首から滲み出てくる、初乳の一滴一滴を取りこぼさない様に、大切に注射器にすくいました。
なぜなら、この母乳の1滴1滴には、我が子が健やかに、幸せに育ってほしいという母親の願いがたくさん詰まっているからです。

助産院を開業してからも複数の授乳期乳がんの方に出会いました。
乳がんと診断され、手術や抗がん剤治療やホルモン療法を始めるために、卒乳を余儀なくされます。
そのような乳がんの母親に出会う度に、母乳育児で大切なのは、授乳した期間や授乳の方法やどれだけ母乳を飲んだかではなく、わずかな量でも母乳を飲ませてあげたいと願い、その母親の願いを我が子に注ごうとしたことなのではないかなと思っています。それは、数字では表す事ができない生きるエネルギーのように感じるのです。

最後に

すず助産院には、産後1ヶ月未満で卒乳される方、こどもが4~5歳まで授乳を続ける方、兄弟同時授乳(タンデム授乳)をされている方、さまざまな方が相談に訪れます。
タンデム授乳の場合には、2人同時卒乳することもよく経験します。
それぞれのこどもの授乳の終わりはみんな違って良いのです。

母乳は、母親の血液から作られます。
母乳は、母親の体の一部です。卒乳を決める時、卒乳の理由や母乳育児期間の長短にだけこだわるのではなく、どうぞ、ご自分の気持ちに素直に、ご自分の意思を大切にしてください。
卒乳をする時、ご自分が行ってきた母乳育児に納得し、我が子が育つ力を信じ、卒乳を前向きに受け入れられことが大切なのです。

そして、そんな母親達を支えるために、私たち助産師が存在するのです。

このブログがどなたかのお役に立てたら幸いです。

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